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JAHIは、超高齢社会における健康寿命延伸とヘルスケア産業育成の実現を目指す、ヘルスケアに関する有識者、産業、関係者が集まった民間唯一の団体です。

生活は「創発」だ!①生命力とは「偶然を必然化していく力」

この連載では、各分野のエキスパートに健康観や予防法について聞いています。2人目は日本ヘルスケア学会の会長を務める上原征彦先生です。流通やマーケティングを専門とする上原先生の目には、人々の健康づくりやヘルスケア産業はどのように映っているのでしょうか(全3回)。


<略歴>
上原征彦(うえはら・ゆきひこ)
1968年東京大学経済学部卒。日本勧業銀行にて勤務した後、公益財団法人流通経済研究所にてマーケティングと流通の研究に従事。ペンシルべニア大学ウォートン校の客員教授、明治学院大学経済学部教授、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授、昭和女子大学現代ビジネス研究所特命教授を歴任。現在、公益財団法人流通経済研究所理事、さらに、調査・経営相談を行なう株式会社コムテック22の代表取締役を務める。

人間はあらゆる偶然を必然化していく

――上原先生は「創発」という概念を強調されておられます。創発とは、自律性と多様性を持った個と個の相互作用から、予期せぬ新しい潮流が生まれることだそうですね。

上原:私は、生活そのものが創発だと考えています。生活には偶然がつきもので、人間はその中で生きています。人と人が出会うことで生まれる相互作用が、それまでになかった新しいことをもたらす。そういったことを日々経験しながら、私たちは暮らしています。そういう意味では、世の中で起こっていることのすべては偶然の産物であり、人間は生活の中で起こるあらゆる偶然を必然にしていく生き物と言えるかもしれません。

実はこの間、道端で転んでしまったんです。そのとき近くにいて、助けてくれた人は教え子でした。まさに偶然です。怪我が治ったら久しぶりに一緒に食事に行こうと思っています。そこから面白い何かが生まれたとしたら、それが創発です。

もっと卑近な例で言うと、私はいつも家内と一緒にいるわけではなく、ときどき創発を求めて夜の銀座に赴くわけです(笑)。大抵の場合は期待したような創発を得られませんが、おとなしく家に帰って日常生活に向き合うのも、それはまた新鮮に感じることができます。

――偶然というのは、何が起こるか分からないからこそ、新たな事柄を生み出すきっかけになるのですね。

上原:そうです。偶然を恐れ、過去に決められたことを繰り返すような生き方というのは、ロボットと変わりません。人間が持つ生命力や生活力は「偶然を必然化していく力」であって、偶然性がなかったら人間じゃないですよ。必然を追い求めて偶然を排除する努力をするのではなく、偶然と向き合う中でこそ、その人の「個性」が出てくるのではないでしょうか。

高望みせずに、偶然を楽しむ

――上原先生のこれまでの人生において、どんな創発があったのでしょうか。

上原:人生を振り返ると、偶然の連続でした。大学を卒業してから、本当は米国の著名な先生のところに行きたかったのですが、その頃お付き合いしていた恋人と一緒になるために日本で銀行に入りました。入社したら振られましたけど、人生そんなものです。その銀行で現在の妻と出会ったんですけどね。

銀行を辞める決断をしたのも、偶然お会いした流通経済研究所の当時の所長の人間性に惚れたからです。その後、大学で研究している間に米国のビジネススクールに招聘されて、そこで、偶然にも、例の著名な先生に会うことができました。

このような道は、銀行に就職して、偶然性を排除して過去に決めたことだけを追い求め、高望みしていたら絶対に歩めなかったはずです。当時、私のようなキャリアを歩む人は少なく、珍しかったこともあって、実務家から研究者に転じたのだと思います。ニッチャー※として生きてきたからこそ、今の自分があるのでしょう。

※狭い特定のマーケット内(ニッチ、隙間)で独自の地位を築いて活躍する企業や人のこと

といっても、最初からニッチな領域を求めていたわけではありません。偶然を楽しむ気持ちで、何か面白いことないかな?と肩肘張らずに生きていたら、偶然、誰も通っていない道が開けてきたと言えるかもしれません。大きな成果を望まなかったことも結果的に良かったと思います。適当に、まあまあでいいんです。決めた目標だけに向かって努力すると視野が狭まってしまいますから。偶然を捉えてパッとやった方がうまくいくこともあります。

【聞き手・まとめ:田中留奈(伝わるメディカル)、企画・製作:株式会社リッチメディア】